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漫画・アニメの感想など


巌窟王

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巌窟王」は言わずと知れたアレクサンドル・デュマの小説、モンテ・クリスト伯をアニメ化した作品だ。このアニメは昔1話だけ見て、「なんかカラフルなアニメだな」くらいにしか思わず放置していたのだが、最近になって一気に全話鑑賞してみた。結論から言うと、「もっと早く観ればよかった」というのが本音だ。それほどインパクトがあり、引き込まれる作品だった。

原作のモンテ・クリスト伯は19世紀に書かれた小説なので、ストーリーを知っている方も多いと思う。無実の罪で投獄された男が、長い年月の後に脱獄して巨万の富を手にし、自らを陥れた者たちに復讐していく話だ。原作では伯爵を主人公として物語が進むが、アニメでは復讐される側(正確には復讐される人間の息子)のアルベールの視点で描かれているのが特徴だ。観ている方としては、今後伯爵がどのように復讐を実行していくのか、アルベール達はどうなるのかといった点が焦点となる。

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このアニメを観た人の感想はそれぞれだと思う。ある人は伯爵の境遇に同情し、やりきれない思いを抱くかもしれない。ある人はアルベールの親父のクズっぷりに嫌気がさし、無知で無力だったメルセデスを軽蔑するかもしれない。またある人は単にエデがかわいいと思ったり、フランツとアルベールのBL妄想に花を咲かせたりするのかもしれない。

個 人的に腑に落ちなかったのが、最終的にアルベール達が幸せそうな形で終わっていた点だ。復讐対象者の3人の親父共が抹殺されたのは当然だが、フランツまで殺されてしまった以上、他の子供達も不幸にならなければおかしいのではないだろうか。大体フランツは復讐対象者の子息でもないのに何故一人だけ殺されなければならなかったのか?

物語序盤、伯爵はエデにこう言った。「破滅するのは、我らではない」と。その言葉は視聴者にアルベール達の破滅を予感させるものだったが、実際に不幸をその身に受けたのはフランツだけだった。ヴァランティーヌも毒を盛られる憂き目にあったが、最終話を見る限り問題なく 回復しているようだ。幸せな形で終わるならフランツにも生きていて欲しかったし、誰かが犠牲にならなければならないのなら、それはフランツだけではなかったはずだ。

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もう一つの疑問は、伯爵は結局アルベールを殺したかったのかという点だ。アルベール自身が作中で述べている通り、殺そうと思えば殺す機会はいくらでもあった。実際に決闘のシーンなどでは明らかな殺意が感じられるが、 その後アルベールと再会した場面では自身の過去を冷静に語るなど、行動に一貫性がないように思える。あるいは伯爵自身がエドモンと巌窟王の二重人格のよう な状態で、巌窟王はアルベールを殺すことにためらいはないが、エドモンの方には若干の葛藤があるという解釈もできる。また決闘のシーンでは、実際に戦っている相手がアルベールではなくフランツであることを伯爵が認識していたかどうかという議論もあり、それについてはこちらのサイトが参考になった。いずれにせよ、伯爵がアルベールを殺すという形で復讐を果たすという結末もあったと思うが、本作では伯爵はフェルナンへの直接的な復讐を果たす前に死んでしまっており、フェルナンが伯爵の亡骸のそばで自決するという形を取っている。

思うに、この作品は23話「エドモン・ダンテス」で完結するはずだったのではないか。第24話の「渚にて」という題名からも、どうもこの最終話が蛇足のように思えてならない。エドモン、メルセデス、そしてフェルナンの3人が浜辺で楽しそうに過ごしているシーンも、取って付けたような違和感を感じる。救いのないはずの物語が、綺麗事が並ぶ安っぽい美談にすげ替えられてしまった印象だ。

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いろいろ述べたが、この作品は人間の汚い部分を描ききったという点で評価できると思う。女を手に入れるために友人を陥れたフェルナン、金のためなら娘も売り飛ばすダングラール、不義の子を地中に葬ったヴィルフォール、この世の全てを憎むようになったベネデットなどだ。エドモン、エデ、そしてアルベールなど、 本来は優しい心の持ち主だったはずの者が、憎しみに染まっていく様も見逃せない。原作が原作だからかもしれないが、憎悪をテーマにここまで描いた作品はあまりないのではないだろうか。

台詞集

モンテ・クリスト伯
  • 「裏切りの果実は、摘み取られなければならない」
  • 「日の光のもとを歩んできたお前は知るまいな。罪なくして青春を奪われた男と、孤独と飢えに倒れた老人の物語など」
  • 「全てを奪い去られた者の絶望を、お前にやろう」
  • 「私が欲しいのは絶望だ。お前の果てしない絶望なのだ」
  • 「俺は救いなどもういらない。たとえこの身が消えてしまっても、俺は、俺からすべてを奪い、俺を破滅に追い込んだ人間すべてに、最も残酷で最も陰惨な罰を与えてやる。死という平安すら与えない無限に続く苦しみを、必ず!」
エデ
  • 「一生お供いたします。たとえ破滅の道を走り続けたとしても」
ユージェニー
  • 「誰にも止められないわ。誰かを想う、人の気持ちは」
マクシミリアン
  • 「パリの方々は汚れている!」
ペッポ
  • 「たかがパンと塩を分け合ったくらいで友達になれたら、苦労しないわ」
フェルナン
  • 「もう俺は、負け犬の人生なんて嫌なんだよ!」
カドルッス
  • 「死んだ男が帰ってきた!エドモンは俺たちのことを忘れやしない」
アンドレア・カヴァルカンティ侯(ベネデット)
  • 「手前らのお上品ぶった顔見てると、胸糞が悪くなるぜ!所詮お前らも、俺やこいつと同じケダモノじゃねぇか!」